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下肢(あし)の末梢神経障害

外側大腿皮神経障害

井須豊彦、金景成監修『完全図解坐骨神経痛』(エクスナレッジ)より引用
イラスト/ガリマツ

 大腿部(もも)の外側の感覚を支配する外側大腿皮神経は、下腹部と大腿部の境目にある鼠経靭帯の深部を走行します。鼠経靭帯による絞扼(神経が締め付けられること)により発症します。

症状

 外側大腿皮神経が感覚を支配している大腿前外側部に痛み、しびれが出現します。立位や歩行で症状が誘発されやすいです。外側大腿皮神経は感覚神経であり、運動はつかさどっていないために、この病気では下肢の脱力は認めません。外側大腿日神経障害による症状は、腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアによる第3腰椎神経根障害と類似するために、第3腰椎神経根障害と類似するために腰椎MRIで腰椎の病気がないか確認します。

診断

 末梢神経は絞扼などで障害を受けると障害部位で過敏となるために、外部から指で圧迫すると症状が増強したり誘発されます。これをチネル様徴候とよび、末梢神経障害の診断では非常に重要な所見です。外側大腿皮神経障害では、上前腸骨棘内側で鼠径靭帯により絞扼されている外側大腿皮神経を指で圧迫しチネル様徴候の有無を確認します。しかし、チネル様徴候が確認できないからといって、外側大腿皮神経障害は完全に否定することはできません。MRIなどの画像や電気を流す検査(神経伝導検査)でも異常を検知することが困難です。局所麻酔による外側大腿皮神経ブロックを行い、症状が消失することにより診断がなされます。外側大腿皮神経の内側には大腿神経が走行しており、ブロックで用いた局所麻酔が大腿皮神経に浸潤し、ブロックしてから数十分してから下肢の脱力を生じる時があります。そのために、患者さんにはブロック後の下肢の脱力が生じ転倒しないよう注意していただくようにお声がけします。

治療

 きつい下着やコルセット、ベルト着用など外部からの圧迫要因の除去をまず行います。症状が誘発されるような姿勢や動作は極力控えてもらいます。薬物療法(脊髄・末梢神経由来のしびれ・痛みに使用する薬の項を参照)や外側大腿皮神経ブロック、リハビリテーションによる保存的治療を行い、これらの保存的治療で症状が改善しない場合には手術治療(神経剥離術)を行います。

総腓骨神経障害

井須豊彦、金景成監修『完全図解坐骨神経痛』(エクスナレッジ)より引用
イラスト/ガリマツ

 膝のすぐ下の外側には、<腓骨骨頭>という小さな骨の「でっぱり」があります。総腓骨神経は、この「でっぱり」を外側から下側へまわりこみ、腓骨骨頭についている長腓骨筋の下を走りますが、この部分で総腓骨神経障害を起こすことがあります。足を組んだり、きついストッキングをはくことが原因となることがありますが、特に原因がなく、日常の生活動作で傷んでしまうこともあります。

症状

 すねの外側から足の甲にかけてしびれや痛みが起こり、歩くことで症状が強くなり、歩けなくなることもあります(間欠性跛行)。症状が強いと、総腓骨神経が支配している足首を持ち上げる筋肉(前脛骨筋)の力が低下し、足首が上がりづらくなったり、スリッパが脱げやすくなったり、つまずきやすくなったりすることもあります。

診断

 末梢神経は絞扼などで障害を受けると障害部位で過敏となるために、外部から指で圧迫すると症状が増強したり誘発されます。これをチネル様徴候とよび、末梢神経障害の診断では非常に重要な所見です。総腓骨神経障害の場合には、絞扼を受けている腓骨骨頭の下部でのチネル様徴候が陽性となります。通常は、MRI やレントゲンなどの検査では診断が困難で、神経に電気を流す検査(神経伝導検査や筋電図検査)でも、異常を検知できないこともあります。座った状態で足関節の曲げ伸ばしを繰り返す『足関節連続底屈試験』で、90秒以内に症状が誘発されるようであれば、総腓骨神経障害の可能性が高いです。

治療

 足を組んでいた、ストッキングをはいていた、など原因がはっきりしている場合は、原因を除去します。痺れに対しては薬物療法(脊髄・末梢神経由来のしびれ・痛みに使用する薬の項を参照)を、前脛骨筋の筋力低下が強い場合には足関節装具を装着します。リハビリテーションを含めた保存的治療で症状が改善しない場合には手術治療(神経剥離術)を行います。

足根管症候群

井須豊彦、金景成監修『完全図解坐骨神経痛』(エクスナレッジ)より引用
イラスト/ガリマツ

 足首の内側、いわゆる「内くるぶし」のかかと側にある 神経・血管の通り道「足根管」が何らかの原因で狭くなり後脛骨神経が締め付けされることにより発症します。動脈硬化で蛇行した動脈、拡張した静脈、ガングリオンなどによる神経の締め付け、きつい靴などを履くことによる外部からの圧迫のこともあります。

症状

 しびれの感覚は、ピリピリ、ジンジンと表現されることが多いです。その他に、異物付着感、冷感・熱感(ほてり)などいった症状があります。異物付着感は、“足の裏にお餅がくっついている感じ”、“素足で砂利道をあるいている感じ”などと訴えられます。これらの症状が安静時にも強いときには、夜間の不眠の原因になっている場合もあります。踵に向かう神経の枝は足根管よりも手前で枝分かれするので、これらの症状は一般的に踵には無く足裏の前方にあります。後脛骨神経は足趾底屈筋を支配しているために、重症例では足趾底屈筋の筋力低下が出現します。

診断

 末梢神経は絞扼などで障害を受けると障害部位で過敏となるために、外部から指で圧迫すると症状が増強したり誘発されます。これをチネル様徴候とよび、末梢神経障害の診断では非常に重要な所見です。足根管の部分を指で叩いて、足裏のしびれているところに電気が走ったり、症状が強くなるようであればチネル様徴候は陽性で、足根管症候群の可能性が高いです。これまでは画像では異常を検出し診断することは困難でありましたが、我々は足根管部で神経が圧迫されている様子をMRIで観察できるような特殊な撮影の報告をしました(図1)。MRIでは、関節から発生したガングリオンの有無も確認することができます。神経伝導検査により神経の障害を確認しますが、異常が確認できない場合が少なくありません。腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの腰椎病変、また糖尿病性神経障害との鑑別が必要です。また、腰椎病変に合併していることがあり、腰椎病変の手術後に残存した足裏の症状の原因となっている場合もあるので注意が必要です。

治療

 まず、原因となる足への負担となるような生活動作や運動などの制限や、足底板装具やアーチサポートスリッパを使用することで、足の負担を軽減させます。痺れに対しては投薬治療を行います(脊髄・末梢神経由来のしびれ・痛みに使用する薬の項を参照)。リハビリテーションを含めた保存的治療で改善しない場合には、手術治療(神経剥離術)を行います。症状が出現してから時間が経過している場合(おおよそ1年以上)には、手術後も症状が残存する場合が多いです。手術後に残存した症状に対しては、投薬や装具療法などで症状の緩和に努めます。

モートン病

イラスト/小林孝文(アッズーロ)

 足趾(足の指)底面の感覚は、後脛骨神経の枝である固有足底足趾神経により支配されています。モートン病は、この固有足底趾神経が足趾付け根において、中足骨の間をつなぐ靭帯(深横中骨靭帯)により絞扼されることにより発症します。足趾の付け根の関節(MP関節)が伸ばされるような中腰姿勢やハイヒールを履く中年の女性の方に多い傾向があります。

症状

 固有足底趾神経は足の付け根で枝分かれし、隣り合う足趾が向かい合う側の感覚を支配しているために、モートン病では一本の足趾全体ではなく、隣り合う足趾が向かい合う側にしびれ、疼痛が出現します。第3趾と第4趾の間が好発部位ですが、第2趾と第3趾の間、第4趾と第5趾の間にも発症することがあります(第1趾:親指、第2趾:人差し指、第3趾:中指、第4趾:薬指、第5趾:小指)。

診断

 症状のある足趾の付け根の中足骨の間の圧痛、支配領域の足趾に放散痛であるチネル様徴候を確認します。足を横から圧迫することで症状が誘発されたり増強するかどうかを確認するMulderテストが有用です。MRIにより、固有足底趾神経の神経腫(神経の腫れ)を確認すること ができる場合があります。局所麻酔剤による神経ブロックの効果により診断がなされます。                                                                                              

治療

 足を圧迫するようなきつい靴やハイヒール、MP関節を伸展するような姿勢や動作は避けるようにします。各種の投薬、足底板、神経ブロック治療などの保存的治療で改善しない場合には、手術治療を考慮します。

当院の特徴

  • 下肢(あし)の痺れ、末梢神経の病気に対し経験豊富な脊髄外科専門医が診療を行っています。
  • 診断に必要なMRIを備えております。
  • 機能回復にリハビリテーションが可能です。
  • 手術治療が必要な場合には、連携医療機関へご紹介します。

 

NHK『今日の健康』(2022年3月放送)に出演し、下肢の絞扼性末梢神経障害について解説しました。詳しくは NHK健康チャンネルHPをご参照ください。

 | NHK健康チャンネル

 

大正製薬 専門医によるヘルスケアアドバイス『大正健康ナビ』(2023年12月)で、下肢の神経痛について解説しました。詳しくはHPをご参照ください。

大正健康ナビ (taisho-kenko.com)

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